和歌と俳句

永田耕衣

印南野に初見の鳶や秋の風

まのあたり瑞穂恋しき涙かな

旅の者過ぎ去り行くや貝割菜

つまさきに見る母が居や秋の風

芦の花幾たりに逢ひ別れけむ

たてよこに流れ合ひけり村の

朝顔に麦を買ひ足す男かな

ひとの田のしづかに水を落しけり

月明の畝あそばせてありしかな

花芒老母の腰を揉みに行く

行末やつまさきにふむ草の花

我が降ると言へば降り出す秋の雨

朝顔や百たび訪はば母死なむ

秋風やをとめの顔を腹の中

天地に無花果ほどの賑はひあり

夜昼の声のちちろが貌を出す

秋の暮蟻に与ふる物もなく

野分浪通行人が寂しくす

白髪の華のごときに鵙のこゑ

母老いて在り紅白のいなびかり

もう種でなくまつさをに貝割菜

秋水や思ひつむれば吾妻のみ

白菊や対岸は父亡き故郷

その声の場にこほろぎのうつむける

店の減らず老母へ買ひたるに