和歌と俳句

永田耕衣

いづかたも脚下なりけり葛の花

食つて今様地獄なつかしき

白露や世渡りの猪現わるる

足わらねば足りて在るなり秋の暮

此の土のいつまで土や秋の蝶

此の池をもつと知りたし秋の暮

残菊や今何買いに出る我ぞ

秋茄子己に浅く沈滞せよ

投網や桃の葉附きの一つ

天地も子供なりけり櫨紅葉

取れば寺院案ずる素振也

梨の身の滲む白さや後頼む

物感として頭脳在り秋の暮

我生きて在るは人死ぬ菊花

前の世に古池とんぼ噛みつきぬ

窓のようなる寂しさよ赤とんぼ

如何に心貧しき肉体や柚子の空

葱を新しと言うなり秋の暮

秋霜や土橋の小口撫で行く人

秋霜の足裏瞼も藻色かな

秋茄子を見る我が骨組の役立ち

晩年や赤きとんぼを食いちぎる

こおろぎを蜘蛛と見誤るは恋し

秋茄子や此方に来たらぬ花の濃さ

後の世を噛み捨て来るや赤とんぼ