和歌と俳句

永田耕衣

秋雨や空杯の空溢れ溢れ

鯊釣れば雨の神社に犬跳ねて

鈍鳥身鳴るに銀河の粉なの附く

夢みて老いて色塗れば野菊である

新月や転び寝地蔵に添い寝の人参

骸骨が舐め合う秋も名残かな

さよならをいつまで露の頭蓋骨

野菊道数個の我の別れ行く

山中や何れか固き鼻と

着物新しくを眺めかな

顔の眼は頭の眼なり鳳仙花

海よりも老いたる露よ猪よ

無花果を盛る老妻を一廻り

身に靡き入る秋草を追うだけだ

己が種に逢いたき桃や天の川

秋の暮杓無くば水長からん

墓のごと虚空も起てり墓参り

掌に溢れ顕つ秋雨の苦痛かな

桔梗見る眼を遺さばや素晩年

紙魚老いて白毫の如し秋の暮

椎茸の見給うは倭が和服かな

秋立つや皆在ることに泪して

黄金の真実人体秋の暮

老脳を跳ね出る月の眉毛かな