和歌と俳句

永田耕衣

餡の掌をなするや露の菩提樹に

荒野菊身の穴穴に挿して行く

鴉横に居て肩痛し秋の暮

薪あり灰あり鳥の渡るかな

野渡りや殺佛殺祖秋茄子

鐘撞きに行くとは知らじ糸とんぼ

冷え翁極遠の机に肱懸けて

瓔珞と見れば水なり秋の暮

女類亦物物と在り素こおろぎ

椎の実と共に潰れき我一人

流星や墨壱丁を照らしたる

出歩けば即刻夢や秋の暮

大観念即大具体秋の暮

桔梗を引き寄せて体空しけれ

田荷軒耕衣夢葱居士薄

秋茄子の六角を我見落とさん

撫子や死なでむなしき人のむれ

金色の古池のこる秋の暮

歓談のあとで死にけり赤とんぼ

古池やあかつきごとの夕奈落

秋の霜ギイと容顔廻されき

永遠が飛んで居るらし赤とんぼ

何者の足行く秋暮金泥経

人体を乗せむとすなり秋の風