和歌と俳句

中村汀女

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16

ブザー鳴る夜学の銀河の行方かな

羽織借りてすぐにあたたか秋の雨

一本の竹のみだれや十三夜

みぞそばに沈む夕日に母を連れ

雨粒のときどき太き野菊かな

川の香といふは藻の香や後の月

烈日の美しかりし桔梗かな

旅の子の第一信や花桔梗

右左秋の風吹き雲流れ

秋風の通ふ机に膝入るる

書いて行くひとつのことに鉦叩

その後の月日たのまず法師蝉

秋汐の暗き方のみ眺められ

朝露の秋草も摘み髪も梳き

美しき横雲日々に貝割菜

次々に風落ちて行く花芒

木犀に三日月の金見失ひ

夜霧とも木犀の香の行方とも

もの音のここにと絶えて秋薊

朝寒や厨もすぐに片づきて

夕鵙の心右にし左にし

秋雨の雨滴れ近くピアノ鳴り

久しくて次なるの鳴き渡る

貼り替へし障子に早き夜霧かな

秋の日のすぐに傾く白障子