和歌と俳句

中村汀女

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青バナナづしりと垂れし秋暑かな

そのかみの玉座の屏の秋の塵

城壁に秋冷にはか汽車ひびく

の里山塊眉に迫りつつ

秋草の駱駝流し目旅をゆく

国境の森閑と秋の裘

行くほどに長城しかと秋日満つ

陵ありき山さはやけき日没に

驢馬よ曳けとはげます声の秋の暮

穂芒のそよりともせぬ野の真中

月の街大江の霧たちのぼる

月明に火屑こぼしつ長き汽車

磧にも道一筋や秋の暮

長江をそれしさびしさ月も痩せ

秋冷の重慶睡る裾に泊つ

鰯雲岩屏立す彼方かな

いわし雲何重たさや旅鞄

露草や室の海路を一望に

身をすざりつつこほろぎの高音かな

秋蝶山の西日のはげしさに

公園に入るる鉄材秋の暮

貸席の秋の夜泳ぐ金魚かな

あるじ振り先づ千本の葉鶏頭