和歌と俳句

西東三鬼

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若くして梅雨のプールに伸び進む

の家振子がうごき人うごく

旅の梅雨クレーン濡れつつ動きつつ

田を植える無言や毒の雨しとしと

鮮血喀く子の口辺の鬚ぬぐう

眼を細め波郷狭庭の叩く

犬にも死四方に四色の雲の峰

雷火野に立ち蟻共に羽根生える

失職の手足に羽蟻ねばりつく

艦に米旗西日の潮に下駄流れ

老いは黄色野太い胡瓜ぶらさがり

蚊帳の蚊も青がみなりもわが家族

岩に爪たてて空蝉泥まみれ

青萱につぶれず夫婦川渉る

炎天にもつこかつぎの彼が弟子

鰯雲小舟けなげの頭をもたげ

颱風前やわらかき子も砂遊び

垂れし手に灼け石掴み貨車を押す

秋富士消え中まで石の獅子坐る

富士高く海低し秋の蠅一匹

秋浜に描きし大魚へ潮さし来

太郎に血売りし君達秋の雨

父われを見んと麻酔のまぶたもたぐ

亀の甲乾きてならぶ晩夏の城

今が永遠顔振り振つて晩夏の熊

赤かぼちや開拓小屋に人けなし

つめたき石背負い開拓者の名を背負う

痩せ陸稲へ死火山脈の吹きおろし

雨の粒冷泉うちて玉はしる

老いし母怒濤を前に籾平す

冬海の巌も人型うるさしや

落葉して裸やすらか城の樹々

風よよと落穂拾いの横鬢に

赤黒き掛とうがらしそれも欲し

黄林に玉のごとしや握り飯

枯山の筑波を回り呼ぶ名一つ

金の朝日流寓の寒き崖に洩る

北への旅夜明の鵙に導かれ

城の濠涸れつつ草の紅炎えつつ

石の冬青天に鵙さけび消え

汽車降りて落穂拾いに並ばんかと

藷穀の黒塚群れてわれを待つ

冬耕の馬を日暮の鵙囃す

一切を見ず冬耕の腰曲げて