和歌と俳句

止りたる蠅追ふことも只ねむし 虚子

赤ん坊の泣いてをるのに蠅たかる 虚子

我為に主婦が座右の蠅を打つ 虚子

蠅もおちつかない二人のあいだ 山頭火

とまればたたかれる蠅のとびまはり 山頭火

うまくのがれた蠅めが花にとまつてゐる 山頭火

どこまでもついてくるぞ鉄鉢の蠅 山頭火

ついてきた蠅の二ひきはめをとかい 山頭火

街からついてきた蠅で打つ手は知つてゐる 山頭火

ゆふべおもむろに蠅は殺された 山頭火

打つ手を感じて蠅も私もおちつかない 山頭火

一しきり蠅打つことも日課かな 虚子

三井寺や諸人参詣道の蠅 尾崎迷道

蝿叩鬱鬱としてわが端坐 楸邨

蝿を打つ神より弱き爾かな 茅舎

硝子戸の外側にをり梅雨の蝿 立子

蠅とんではつきりとまる八ツ手の葉 杞陽

さだめなき日々見送れり夜の蠅 友二

更けし灯に迷ひ来し蠅にねらはるゝ 友二

黒蝿が無為の胸板踏んづける 草城

息を呑み蠅のいのちをわがねらふ 草城

真黒な硯を蠅が舐めまはす 誓子

夜の蠅の大き眼玉にわれ一人 三鬼

一点の蝿亡骸の裾に侍す 波郷

仏生や叩きし蠅の生きかへり 虚子

眼を細め波郷狭庭の蠅叩く 三鬼

円空の微笑佛に蠅とまり 青畝

彼ノ蠅ノ矢羽ノ遥カナルヲ打ス 耕衣

充ち来たる蠅の頭脳や仮枕 耕衣