和歌と俳句

種田山頭火

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がちやがちやよ鳴きたいだけ鳴け

お彼岸のお彼岸花をみ仏に

何だか腹の立つ秋雨のふる

秋雨の一人で踊る

雨がふるのでがおちるので

枯れそめて赤いのは曼珠沙華

庵もすつかり秋のけしきの韮の花

わらやしづくする朝の虫なく

しんかんとして熟柿はおちる

つくつくぼうしもをはりの声の雨となり

夜のふかくこほろぎがたたみのうへに

灯火一つ虫がとんできては死ぬる

彼岸花さくふるさとは墓のあるばかり

あさつゆのしそのはなこぼれては

藪のなか曼珠沙華のしづか

なんぼでも落ちる柿の木のしづくして

汲みあげて水の澄む雲かげ

水は透きとほる秋空

秋空のどこかそこらで何か鳴く

おちついてもうれてくる

水のながるるに葦の花さく

てふてふとべばそこに残る花はある

あひびきは秋暑い街が長く

あすはおまつりの蓮をほるぬくいくもり

掃きよせて焚くけむりしづかなるかな

はれたりふつたりあひたうていそぐ

まよふたみちで、もう秋季収穫がはじまつてゐる音

出来秋ぬれてはたらく

夜あけの雨が柿をおとして晴れました

十字街はバスが人間がさんさんな秋雨

濡れて越える秋山のうつくしさよ

ぬれてきてくみあげる水は秋のいろ

はだしであるく花草のもう枯れそめて

ヱスもひとりで風をみてゐるか

秋雨の夜がふける犬に話しかける

けさの水音の、ゆふべがおもひだされる雨

サイレン鳴れば犬がほえる秋雨

嵐のかげのしろじろと韮の花

日向ごろりとヱスもわたしも秋草に

あらしのあとの水音が身のまはり

月へ汲みあげる水のあかるさ

月のさやけさ酒は身ぬちをめぐる

月が酒がひとりの秋かよ