和歌と俳句

京極杞陽

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手毬つく顔付のふとおそろしく

繭玉の中に真赤な大きな玉

自動車とバスの間に風花が

八幡宮綺麗で綺麗で雪が降る

道ちよつと坂瀬戸物屋雪が降る

電柱がペンキ塗りたて雪が降る

此処景色余りに雪の山多し

雪晴の部屋に椿の油絵よ

雪をんな哥麿のかほで目が光る

雪やむと市内電車がはやくとほる

その雪崩午後二時頃といふ悲し

スキー術変な呼吸がいゝ呼吸

真青に堅き氷の乾きゐる

熊笹がはつきり梅の花ぱつと

猫柳天は明るく地は暗し

春の夜の大きな大きな濤の音

春の風厚き暖簾の吹きあがり

あたたかしのむコーヒーも濃く甘し

春の日にかわきゆく土見つめつつ

靴の先みんな綺麗に春の燈に

貨車一輛それが陽炎となつてをる

春泥に映る花屋と床屋かな

ゆびさすや春雨傘の人の手が

何となく虻は清潔姿よし

輝ける光の朧夜会服

はるばると都踊の番組を

小さくて都踊に出てくるよ

夏近し朝顔形の白き雲

かの藤は丸々としてモダンなる

吹き過ぐる畑の風に芥子綺麗

エニシダの花にも空の青さかな

若楓筆の流れのごとき枝

着て律儀に腰を掛けてをる

植ゑられし茄子に麦の折れかかり

賀茂祭潰れた顔の牛童

モスリンのやうな緋鯉の色茫と

印度には罌粟の花咲き牛は神

短夜の船路なりしよ香港よ

鯰小さく平たく短く見えにけり

石を縫ふ水に蜘蛛が居蚊が居りぬ

短夜の自動車つどひ散るホテル

とんではつきりとまる八ツ手の葉

自動車の瓦斯のけむりが昼顔

緑蔭の冬の日に似るレストラン

打水の水の大きな塊よ

立つてゐる足が離れて浮いてくる

浮いてこい浮いてこいとて沈ませて

自動車のばたんとしまる峡涼し

金亀虫柘榴の花に舞ひ停まる

睡蓮は塊りて灯の影はとび

唾に噎せ総毛立ちたる昼寝かな

扇風機人は屈みて球を突く

濃きが都会の憂鬱にかかる

たなごころ向けて遮る西日かな

阪急は夾竹桃を飜す

灯涼しく粋にに山の端にはまだ日

湯町なり路地片かげり雲流れ

夕立に汽船黒く濡れ月の海に揺れ

後甲板巨きく夏の月近し

立ちし鎌倉丸の朝かな

夏潮の輝くデッキゴルフかな

秋の黄のながるる汽車の窓に富士

古へは領地といひし小さき秋

ピッチングする檣に月と星

颱風の歩を云へるラヂオかな

ブランデーウヰスキーみな爽かや

動物園さわやかに象みえ来たる

月を看る窓より両手出して居る

木犀の香のかむさりてきたりけり

病院の正面淋し秋灯

自動車と蔦の月夜や玄関は

菊人形水のあやめは造り花

胴太く刀太けれ菊人形

紫の幕紫の総菊黄なり

ぎつしりと小菊つつみし新聞紙

人どつと来て菊を観て居る如し

紅葉濃く人の笑まんとしてやみし

ここに出てけしき見馴れた冬の街

ともしびの次第に照らす時雨かな

落葉中チラと目の行くところかな

鷹匠が二人一人は鷹を手に

一望の枯桑に山青き白き

いもうとの告別式よ日短か

枯芝と枯蔓映りゐる鏡

信じつつ楽しく子供クリスマス

寒柝の一つ一つに余韻なし

北風に雲は東し南しぬ

老犬の如くに我も日向ぼこ