和歌と俳句

若楓

らんぎりのうてる間まつや若楓 万太郎

ほそぼそと降りいでにけり若楓 草城

若楓伐つて御車通しけり 泊雲

肱かけてきやしやな手摺や若楓 風生

若楓いかづち遠くなりにけり 風生

高き窓低き廂や若楓 青邨

松が枝の中にも枝や若楓 石鼎

葉のふちの紅らみ垂れし若楓 石鼎

しづむ日の光あはれや若楓 万太郎

古すだれ垂れし館や若楓 石鼎

星ヶ岡つつみ了せぬ若楓 石鼎

山門の両側よりや若楓 石鼎

山王のふもとにひくし若楓 石鼎

随身門見仰ぐ左右の若楓 石鼎

地に添うてひろごり垂れて若楓 石鼎

若楓重り垂るも夕心 石鼎

やはらかに葉ひろにたるも若楓 石鼎

ゆさゆさとさゆるるときも若楓 石鼎

二三枚吹かれかへるも若楓 石鼎

うれの葉のみなほのぼのと若楓 石鼎

葉の中に降りこむ雨や若楓 石鼎

白き鯉澄みたりかざす若楓 秋櫻子

帽とりて並び詣でや若楓 立子

葉柄のなんぞ朱さや若楓 石鼎

茂吉
山こえて雨ふりくれば目のまへの若かへるでのゆるるこの夜

尾長来ていよよたわわの若楓 茅舎

白秋
前廂ふかきこの家を門庭は日の照りあかり若葉かへるで

葉を襲ねかさねて暮るる若楓 草城

若楓筆の流れのごとき枝 杞陽

若楓ゆふかぜ池に吹きつのり 秋櫻子

若楓葉づたふ雨の瀧なせり 秋櫻子

鶺鴒の来る石ありて若楓 秋櫻子

若楓影さす硯洗ひけり 秋櫻子

灰皿の曳けるけむりや若楓 秋櫻子

合掌の尼並み立てり若楓 秋櫻子

厨子の絵のえわかずくらし若楓 秋櫻子

分釐の乱れなかりし若楓 風生

宇治川は渦群れはしる若楓 秋櫻子

若楓あはれ美しきもの残る 秋櫻子

廊わたる尼袖あはせ若楓 蛇笏

若楓龍田うつしもさまかはり 風生

飛泉あり打ちてしぶける若楓 秋櫻子

萬緑に滲みがたくしてわかかへで 蛇笏