花さむき大原の雨に来てぬれぬ
苔ぬれてしげき春雨音あらぬ
わがきくは治承寿永の春の雨か
春蘭のむらさきひとつ石に咲けり
若き尼御厨子に春の灯をささぐ
白き鯉澄みたりかざす若楓
臺にして深山の朴の花ひらく
白き壺かきつばた高く咲かせたり
草市をこよひときくに空くらき
草市や風にとらるる灯をならべ
鉢にして深山りんどうがもつ蕾
りんだうのいとしき蕾三つもてる
りんだうの蕾日にけに藍を染め
霧に咲く深山りんどう卓に咲きぬ
乗鞍岳雪さやかなり桑の上に
雲の影落ちて夏山を深くしぬ
萬尺の夏山にむかひ径つづけり
蕎麦を蒔きその花咲かせ翁住む
雪渓をあふげばそこに天せまる
雪渓は夏日照るさへさびしかり
穂高岳雷雲の上に巌そびゆ
穂高見て深山の菌を敷きいこふ
夏山を統べて槍ケ岳真青なり
攀ぢがたき雪渓と見れば霧かかる