堰の水渦巻きやまべのぼり来る
やまべ釣野川の渦を見て立てり
手長鰕つれては暗き雨きたる
梅雨の星夜釣の舟に照るひとつ
梅雨くらし狐の提灯昼ともり
梅雨咲くは狐の提灯藪手鞠
多摩郡夏川峡をながれいづ
夏山に雲居りやせし瀬のながる
山女釣わがゆく橋をうち仰ぎ
梅雨雲のうぐひす鳴けりこゑひそか
木苺に瀧なす瀬あり峡の奥
葭の風空蝉水へ落ちにける
紫陽花をはなれし昼の蛍あり
手長鰕つる手に昼の蛍来る
月の木々葛をまとへり葛ひかる
月の道霧あらはれて顔に来る
霧ひびき朝ひぐらしのこゑおこる
菊かをり金槐集を措きがたき
菊の甕に藍もて描きし魚ひとつ
山茶花の咲きぬと雀高鳴けり
八つ手咲き雀のめざめおそくなる
初氷はりぬと雀默しゐる
茶の花も崖もしずかにこぼれゐる
夜焚火に金色の崖峙てり