和歌と俳句

原 石鼎

58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68

古すだれ垂れし館や若楓

星ヶ岡つつみ了せぬ若楓

故郷の空によく似て今朝の夏

一鍬に起す菫や夏初め

初夏や杣が留守なる午餉時

杣が夏猿が根子の火桶らし

初夏や美事に出来し蓬餅

初夏や透明の温泉あふれ居り

初夏や羽織ひつかけTowelling

初夏の田楽太しかぶりけり

初夏を濃き紫のすみれなど

初夏や咲かむとすなる巌躑躅

初夏や葉をよそほへる嵓つつじ

初夏や土坡しろじろと躑躅山

初夏は日色ふくみし楓より

初夏や煤けすすけし糸車

初夏の釣れずなりたる子鮎かな

初夏や散りのこりつつ花あしび

山門の両側よりや若楓

山王のふもとにひくし若楓

随身門見仰ぐ左右の若楓

初夏は色さまざまの楓より

この庵のまづ目に若葉紅葉かな

初夏の日影はおつるずんずんと

初夏の風にひろめや渡世かな