和歌と俳句

京極杞陽

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瓦斯燈の光の翼枯枝に

長火鉢の上に卓上電話かな

火桶より火の粉の一つ上りたる

ストーブのそばに小さきマッチかな

火鉢あり机の上に鞄あり/p>

スキーヤーちよつとしやがんですべり去る

やつてみせくれしスケートジャンプかな

雪とばし寝ころぶ犬を見下す犬

都鳥なつかしきことをいかにせん

紅梅と都鳥とは似合はしや

春雨を枕に耳をあてて聞く

山吹の花びらまざる花吹雪

クローバに乗りてベンチに腰をかけ

靴踏みし跡の緑やクローバー

筍の割りたる土と離れをる

五月より六月にかけ満州へ

満州へ五月の旅の辞令かな

縁側に緋毛氈ある日傘ある

芝園にライラック咲き藤も咲き

ライラック近き異国に来りける

ライラック殿下の為のこの館

自動車をくるりと廻すリラと擦れ

リラと彳つ式部長官式武官

壁厚く住まへる民やライラック

秋草にたんぽぽ呆け古堡塁

昼の虫父母の世の戦蹟に

脱ぎ捨てるホテルの浴衣シルクハット

冷房車満州の冬に話とぶ

玄関に出て人を待つ夜の柳絮

たんぽぽに馬車の車輪の見えて廻る

日本人一人も居らず柳絮とぶ

蒙古風熄み城壁に工事あり

アカシヤの花屑ひろひ飛行機へ

はやばやと檜山のもとに鵜飼待つ

鵜の舟の淀に溜まりて瀬を下る

急流の縞と鵜舟の炎かな

鵜篝に照らし出されし川楊

鵜篝に滝作し落つる灯虫あり

円陣をつくり燃えくる鵜舟かな

雨急に鵜飼そこそこに終りけり

物産の陳列場の夏帽子

白百合とわが白シャツの肩ふるる

ワイシャツの肩姫百合の花粉つく

鴨居先づ打つて入り来し兜虫

帽とれば頭青き兵と汗の馬

湖の風涼しく入りて廊下の灯

蘚寺を青柿に立出でにけり

木槿咲き疎水ながれてゐたりけり

大文字や淋しく架る二条橋

風に騒ぐ心や須磨の夕月夜

青山の墓地の空なる花火かな

みるかげもなき向日葵と貨車一つ

時折に柳斜めに散りいづる

はたはたの骸の頃となりにけり

秋雨の御門の強く打煙り

名刀ををさめし蔵に虫時雨

虫の宿楷書細き額かかげ

燈籠と萩の間に入りみし

物置のすぐにあれども萩がくれ

白露の句の短冊をふるへ持つ

朝顔の搦む力も末枯れぬ

飛上り羽をひらかずばつた落ち

ひるどきも小鳥の通ることありて

立子氏の机に小さき赤き柿

いつのまに橋をわたりし秋の暮

葭原の刈られ蜂の巣ころびをり

鷹の性憶ゆるままを語りくれ

ねんねこやあかるい方を見てゐる子

浮くときも生れる水輪鳰

街の灯に一重の冬の霞かな

ストーブに近き灯の消してあり

一羽にていそぎおよいでゐる鴨よ

刈葦の枯葦に立てかけてある

一枝の必ず伸びて桑枯るる

枯桑の日和の中に働ける

大年の大夕焼や観世音