和歌と俳句

日野草城

40 41 42 43 44 45 46 47 48

新樹撓めて神のあらあらしき息吹

戦盲に腰を揉まるる夜の薄暑

新緑や薔薇の花びら地に敷きて

咲き闌けしけはひに散るや花あふち

妻かがむ樗の花のこぼれしに

夕歩きアカシヤの木に花残る

白桃は熟るるばかりや古娘

息を呑みのいのちをわがねらふ

古妻のぐつすり睡たる足の裏

蠅を打ち蟻をつぶして碌々と

夏ひばり微熱の午後の照り曇り

咲き切りし薔薇を眺めて倦怠す

花散りしばらの青垣雨ひねもす

薄暑なり甘ゆるハワイアンギター

熟れ尽しは痩せけりわれのごと

これ以上痩せられぬ菖蒲湯に沈む

七月や髪うすうすとわが顱頂

七月や既にたのしき草の丈

めつむれば劫暑の天の大牡丹

蛍火の青きにおびえそめむとす

夏すがた妻が露はす腕に触る

妻の蚊帳しづかに垂れて次の間に

夏草や数へがたきは未知の友

八朔の鏡に骨をうつしけり

夏の闇高熱のわれ発光す

肋骨を愛すつれづれなる手以て

手鏡にあふれんばかり夏のひげ

健康な妻を心の妻として