和歌と俳句

日野草城

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実ざくらやをとめさびつつ人みしり

スウイングや浅き昼寝のゆめうつつ

わくら葉をゆびにひろへり長やまひ

明日の米無き土砂降りの夜更の灯

梅雨のあめしづかに瓜の蔓の智慧

てのひらの来て握りたる今年竹

今年竹かなしきばかりあをあをと

濃かにしてしづかなる今年竹

梅雨風呂や凡夫煩悩垢無限

匂ふなり遠き梢の朴の花

長やまひけふの卵の値を嘆く

売らまくの訪問服を着て見せよ

皓々と泰山木のけさの花

昼寝ざめ泰山木の花の香に

万緑に泰山木の花二つ

泰山木七つの蕾ひらき次ぐ

泰山木の花視野になしそのかをり

墨かをり泰山木の花かをる

あひびきがのろのろ歩く蓮の花

仰臥して四肢を炎暑に抑へらる

妻萎えて草木の萎えを戻り来る

ゆるやかに炎暑の琴の音の粒

夕日を見てイタリアの唄を聴いてゐる

昼寝ざめ眼に深みどり口粘る