和歌と俳句

蝿憎し打つ気になればよりつかず 子規

山寺の庫裏ものうしや蝿叩 子規

洗ふたる飯櫃に蝿あはれなり 子規

蝿打てしばらく安し四畳半 子規

馬蠅の吾にうつるや山の道 子規

眠らんとす汝静に蠅を打て 子規

ゑいやつと蝿叩きけり書生部屋 漱石

馬の蝿牛の蝿来る宿屋かな 漱石

草の戸や二本さしたる蝿たたき 鬼城

抑ゆ心我のみに蠅のまつはりて 山頭火

茂吉
電燈を 消せば直くらし ひとつ ひたぶる飛べる 音を聞きける

茂吉
しんしんと 夜は暗し 蠅の飛びめぐる 音のたえまの しづけさあはれ

茂吉
汗いでて なほ目ざめゐる 夜は暗し うつつは深し 蠅の飛ぶおと

茂吉
ひたぶるに 暗黒を飛ぶ 蠅ひとつ 障子にあたる 音ぞきこゆる

茂吉
部屋なかの 闇を飛ぶ蠅 かすかなる 戸漏る光に むかひて飛びつ

茂吉
ひた走る 電車のなかを 飛ぶ蠅の おとの寂しさ しぶくさみだれ

茂吉
晝すぎて 電車のなかの 梅雨いきれ 人うつり飛ぶ 蠅の大きさ

茂吉
おほほしく さみだれ降るに 坂のぼる 電車の玻璃に 蠅とまりけり

茂吉
ひたはしる 電車のなかに むらぎもの 心は空し 蠅の飛ぶおと

槇柱に清風の蠅を見つけたり 虚子

蠅打つてさみしさの蠅を見つめけり 山頭火

蠅とぶや汀の石に下駄の跡 石鼎

蠅一つ夜深き薔薇に逡巡す 草城

蠅遅々と供華の白蓮渉りけり 草城

添乳寝の忘れ乳なり蠅とまる 草城

いねがてにしてをれば蠅にとまらるる 草城

昼深し懶き蠅の花移り 草城