和歌と俳句

種田山頭火

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大正2年

子と遊ぶうらら木蓮数へては

気まぐれをうかと来ぬげんげ濃き雨に

間道の標梅か小鳥啼き連るる

病床の散りぬ何待つとなく

女喧しき踏青や観光列車過ぐ

崖撫づる水ゆくとなき蝉時雨

波追うて騒ぐ児ら浦の夏活きて

船腹のあらはに退潮の秋寒き波

お大師詣でがちらほらと秋晴れの路を

大正3年

今日も事なしに酒量るのみ

泣寝入る児が淋しひとりつぎぬ

榾ほとり歌うては独り遊ぶ児よ

降りそめし葉のそよぎ暗き病床に

草青々踏まば青染む素足行く

絵本見てある子も睡げ木蓮ほろろ散る

我とわが子と二人のみ干潟鳶舞ふ日

初めて見し夕凪や酒座に侍す

構内倉庫建つままに柳青みたり

雲かげれば庭沈む木の芽暗き色

酔へば物皆なつかし街の落花踏む

線路あさる鴉ありうらら汽車待てば

蝶々手離せば低う舞うて葉桜の奥へ

蜘蛛の囲に露しとど月草一つ咲いて

行く水分つ石ほとりアメンボウ流れては

読み倦いて寝転べば春日這へる虫

嵐やみしだるき空うつろ鳴く雲雀

橙の花もいつしか小さき実となりしかな

つと立ちて火蛾捨つる小雨深き闇

抑ゆ心我のみにのまつはりて

寄せ藻二た山波ずり燕さみだるる

庭石濡らして微雨過ぎし青葉風止まず

踊太鼓夕誘ふ海のあなたより

円いがぽかと出て対岸灯し初めし

蜻蛉去れば蜂が来る書斎静心