和歌と俳句

村上鬼城

五月雨のふり潰したる藁家かな

五月雨や松笠燃して草の宿

五月雨や浮き上りたる船住居

出水や牛引出づる真暗闇

提灯に風吹き入りぬ五月闇

苔さくや親にわかれて二十年

蛞蝓の歩いて庭の曇かな

さいかちの落花に遊ぶ蟇

蟇夕の色にまぎれけり

蟇のゐて蚊を吸い寄する虚空かな

桑の實や二つ三つ食ひて甘かつし

道端の義家桜実となりぬ

青梅の葉蔭に見ゆるほどになんぬ

水の邊や恩鍬はづして田植馬

小さき子に曳かれていばゆ田植馬

さみしさや音なく起つて行く

蛍来よ来よ魂も呼んで来よ

親鳥の高浪に飛ぶ浮巣かな

鳰の巣の見え隠れする浪間かな

夕焼やうぐひ飛出る水五寸

水泡を跳り越えけり水馬

相逐うて流れをのぼる水馬

月浮いてまひまひ遊ぶ野川かな