和歌と俳句

種田山頭火

前のページ< >次のページ

岩のあひだにも畠があつて南瓜咲いてる

波音のがよう熟れてゐる

蕎麦の花にも少年の日がなつかしい

お経あげてお米もらうて百舌鳥ないて

露草が露をふくんでさやけくも

一りん咲ける浜なでしこ

霽れてはつきりつくつくぼうし

休んでゆかうのないてゐるここで

子供ら仲よく遊んでゐる墓の中

大魚籃ひきあげられて秋雨のふる

ここに白髪を剃り落して去る

熟れて垂れては刈られるばかり

誰もゐないでコスモスそよいでゐる

剥いでもらつたのうまさが一銭

秋暑い乳房にぶらさがつてゐる

秋風の鶏を闘はせてゐる

秋が来た雑草にすわる

酔うてこほろぎと寝てゐたよ

ちらほら家が見え出してが鋭く

こんなにうまい水があふれてゐる

窓をあけたら月がひよつこり

ゆつくり歩かうがこぼれる

明月の戸をかたくとざして

故郷の人とはなしたのも夢か

伸ばした足に触れた隣は四国の人

松風ふいて墓ばかり

志布志へ一里の秋の風ふく

秋風の石を拾ふ

年とれば故郷こひしいつくつくぼうし

安宿のコスモスにして赤く白く

線路へこぼるるの花かな

秋晴れて柩を送る四五人に

岩が岩に薊咲かせてゐる

家を持たない秋がふかうなつた

捨ててある扇子ひらけば不二の山

秋の空高く巡査に叱られた

朝寒に旅焼けの顔をならべて

それでよろしい落葉を掃く

水音といつしよに里へ下りて来た

山路咲きつづく中のをみなへしである

だんだん晴れてくる山柿の赤さよ

休んでゐるそこの木はもう紅葉してゐる

茶の花はわびしい照り曇り

しみじみ食べる飯ばかりの飯である

こんなに米がとれても食へないといふのか

出来すぎた稲を刈りつつ呟いてゐる

刈つて挽いて米とするほこりはあれど

コスモスいたづらに咲いて障子破れたまま

父が掃けば母は焚いてゐる落葉

朝の茶の花二つ見つけた

まつたく雲がない笠をぬぎ

秋空、一点の飛行機をゑがく

もぎのこされた柿の実いよいよ赤く

墓がならんでそこまで波がおしよせて

波の音しぐれて暗し

食べてゐるおべんたうもしぐれて

しぐるるやみんな濡れてゐる

さんざしぐれの山越えてまた山