和歌と俳句

種田山頭火

前のページ< >次のページ

わかれきてつくつくぼうし

また見ることもない山が遠ざかる

こほろぎに鳴かれてばかり

れいろうとして水鳥はつるむ

百舌鳥啼いて身の捨てどころなし

どうしようもないわたしが歩いてゐる

涸れきつた川を渡る

ぶらさがつてゐる烏瓜は二つ

すすきのひかりさえぎるものなし

分け入れば水音

すべつてころんで山がひつそり

雨の山茶花の散るでもなく

しきりに落ちる大きい葉かな

けさもよい日の星一つ

すつかり枯れて豆となつてゐる

つかれた脚へとんぼとまつた

枯山飲むほどの水はありて

捨てきれない荷物のおもさまへうしろ

法衣こんなにやぶれて草の実

旅のかきおき書きかへておく

岩かげまさしく水が湧いてゐる

あの雲がおとした雨にぬれてゐる

蝉しぐれ死に場所をさがしてゐるのか

青葉に寝ころぶや死を感じつつ

しづけさは死ぬるばかりの水がながれて

かなかなないてひとりである

このいただきに来ての花ざかり

旅のすすきのいつ穂にでたか

投げ出した足へ蜻蛉とまらうとする

けふも旅のどこやらでがなく

身に触れてのこぼるるよ

かさなつて山のたかさの空ふかく

霧島に見とれてゐれば赤とんぼ

チヨツピリと駄菓子ならべて鳳仙花

朝焼け蜘蛛のいとなみのいそがしさ

霧島は霧にかくれて赤とんぼ

糸瓜の門に立つた今日は

しんじつ秋空の雲はあそぶ

あかつきの高千穂は雲かげもなくて

馬がふみにじる草は花ざかり

笠のの病んでゐる

死ぬるばかりの蝗を草へ放つ

白浪おしよせてくる虫の声