和歌と俳句

種田山頭火

前のページ< >次のページ

休む外ない雨のひよろひよろコスモス

崖はコンクリートの蔦紅葉

さみしさは松虫草の二つ三つ

日が落ちかかるその山は祖母山

暮れてなほ耕す人の影の濃く

いただきの枯すすきしづもるまなし

犬が尾をふる柿がうれてゐる

よろよろ歩いて故郷の方へ

枯山のけむり一すぢ

雨だれの音も年とつた

酔ひざめの水をさがすや竹田の宿で

谷の紅葉のしたたる水です

青空のした秋草のうへけふのべんたうひらく

あばら屋の唐黍ばかりがうつくしい

宿までかまきりついてきたか

一きわ赤いお寺の紅葉

大空の下にして御飯のひかり

阿蘇がなつかしいりんだうの花

しぐるるや人のなさけに涙ぐむ

山家の客となり落葉ちりこむ

ここちやうねる今宵は由布岳の下

雑木紅葉のぼりついてトンネル

おべんたうをひらく落葉ちりくる

大銀杏散りつくしたる大空

鉄鉢、散りくる葉をうけた

山の紅葉へ胸いつぱいの声

また逢へた山茶花も咲いてゐる

晴れてくれさうな八ツ手の花

しぐるるや供養されてゐる

酔うて急いで山国川を渡る

冬空のふる郷へちかづいてひきかへす

しぐるる街のみんなあたたかう着てゐる

しぐれてる浮標が赤いな

けふもしぐれて落ちつく場所がない

しぐるるや煙突数のかぎりなく

また逢ふまでの山茶花の花

しぐるるやあんたの家をたづねあてた

をりをり羽ばたく水鳥の水

枝をさしのべてゐる冬木

そこもここも岩の上には仏さま

枯木かこんで津波蕗の花

見すぼらしい影とおもふに木の葉ふる

逢ひたい捨炭山が見えだした

もう一度よびとめる落葉

ボタ山のただしぐれてゐる

笠も漏りだしたか

冬雨の橋が長い

重いもの提げてきた冬の雨

ひとりのあんたをひとりの私が冬の雨

ほどよい雨の冬空であります