秋耕の馬のししむら土と照り
蝶低し秋耕の鍬ひくければ
堂縁を鏡とぬらし萩の雨
黄葉して萩また庭にあらはれし
あらはれてむかごの黄葉梢をさす
鯊の舟潮の千筋にのりこぞり
戦災の缺きしその墓歌麿忌
佇めば行けば草の實みじんなる
おのおのの数珠に月てり流燈会
面の眼に瞳のある亥の子鬼が来る
ならはしの良夜の芥子を妻と蒔く
をちこちのをちの良夜の森に靄
とく着いて月の仔細を山荘に
雲の間のひろきに夜寒月となる
品川の倉庫つづきも月の情
夜学師の一たかぶりのチョーク折れ
夜学子の辞書よく指にしたがへる
夜学子もその師も絣灯にうかべ
ふくるると消ゆると秋の雲二つ
見つつ消ゆ雲あり秋の雲の中
軒の巣に蜂と蜂の子秋の雨
刈りおとす枝に蜂の巣秋の空
芭蕉葉の露のながれの幾交り
登高の多摩の横山田を蔵し
つと出でて庭に立つさへ秋高し