先着の焚きくれし湯に霧の夜を
奥の嶺ののぞく淡路に汐は秋
堰あげて水車舞ひそめ野路の秋
甕水の一座の菱も寺の秋
紅葉して山荘人の住み住まず
索道のうなづきゆく荷山もみじ
船造る音越えきつつ山粧ふ
松島の松間紅葉へ橋わたる
稲すずめ森ごもり鳴くすさまじき
村はみな欅を門とし暮の秋
その労の妻にもすこし菊開花
一とせは人を老いしめ菊に会ふ
蝙蝠の終の二羽とび菊夕べ
伯耆より到来つづき梨の秋
濡れ指をかざして梨のうまかつし
長き夜の顔にまたたき置くばかり
嶺粧ふすそ野に稲架を湧きたたせ
噴煙の稲架の夕べを立ちまさり
りりとのみりりとのみ蟲十三夜
晩稲刈おくつき越しに立ちあがる
稲架を解く墓原もみぢほしいまま