和歌と俳句

夜長

炭焼も神を恐るる夜長かな 普羅

夜長し四十路かすかなすはりだこ 草田男

しめきりし障子のうちの夜長かな 万太郎

長き夜はひとりつぶやく石もあらむ 草城

夜長馬母子の刻印額に白し 草田男

いくたびか母馬めざめただ夜長 草田男

鎌倉の夜長にはかに到りけり 万太郎

うきぐもの雨こぼし去る夜長かな 万太郎

あすといふ日のたのめなき夜長かな 万太郎

長き夜やこのごろきけぬ波の音 万太郎

長き夜やひそかに月の石だたみ 万太郎

星月夜まくらことばの夜長かな 万太郎

目にみえて猫のそだちし夜長かな 万太郎

長き夜や一つの膳に一と銚子 万太郎

川音の高まり長き夜はくだち 虚子

黒潮の夜長の叫び今か聴く たかし

漁り火の海の都も夜長かな たかし

辨松の煮ものゝ味の夜長かな 万太郎

いつのまに中日となりし夜長かな 万太郎

長き夜の顔にまたたき置くばかり 爽雨

門司の燈の長き長夜を減りもせず 誓子

夜長し草入水晶翳こもり 林火

老いゆくを知れとて長き夜はあるか 林火

人絶えて長き橋長き夜を懸る 林火

夜長し死者と交はる夜もありて 林火

夜長し宇治拾遺こぶとり爺の条 林火

壺湯の湯色変りたる夜長かな 青畝

銅鑼止めば船なくなりし夜長かな 青畝

長き夜のしんの夜中の声なき声 風生

拝みきし佛の数とゐる夜長 林火

みちのくの頭良くなる湯に夜長 林火

夜長人伊達さまの湯に居眠れる 林火

死を悼むこころを縛す夜長かな みどり女