和歌と俳句

会津八一

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ひのもとの みてらのかべに ゑがかむと しほのやほぢを わたりこしひと

いまさざる みこをしぬびて しづかなる みてらとひこし からのゑだくみ

ゆめのごと ありこしてらの かべのゑに なほさやかなる ふでのあとあはれ

まちゆけば ばうくうがうの あげつちに をぐさあをめり あめのいとまを

うちひさす おほきみやこの みちのへに ひとむらほむぎ いろにいでつも

すずかけの かげらふみちに いくばくの くろつちありて なすびはなさく

きぞのよひ さいていねたる ひとえだの たいさんぼくは さきいでにけり

ねそべりて ものかくあさを かたはらに たいさんぼくは かににほひつつ

おほらかに ひとひをさきて うつろへる たいさんぼくの はなのいろかも

さきはてて ひとひのうちに うつろへる ましろきはなの こころをぞおもふ

あをによし ならのみほとけ ひたすらに さきくいませと いのるこのごろ

ばらのねを さきてうづめし りんだうの はなぶさしろく うつろひにけり

とりはてて ものなきはたに おくしもの はだらにみゆる にんどうのかき

あさひさす リラのしづえに かけすてし みかんのかはに かぜそよぐみゆ

うつりきて うたたわびしき くさのとに けさをながるる あきさめのをと

ともしびに にはのまつむし のぼりきて ほとほとなくか さよふくるまで

ことぐさの つゆけきなかに たちぬれて あさをふようの しろたへにさく

わがたてる はたけのはてに きこえくる にはのこぬれの ひよどりのこゑ

おろかなる あるじこもりて ふみよむと このまのつぐみ ささやくがごと

もろごゑに つぐみなきつれ とびさりし かきのほつえの ゆれやまずけり

うみおちて つちにながるる かきのみの ただれてあかき こころかなしも

さざんくわの いくひこぼれて くれなゐに ちりつむつちに あめふりやまず

はるされば むらのわかびと ふえふきて ししかぶりこし はたのほそみち

あすならう いろづくなかゆ さしいでて つぼみとぼしき こうばいのえだ

すゐれんの うきはまだしき いくはちの みずにかがよふ はるのしらくも