和歌と俳句

法隆寺

行く秋をしぐれかけたり法隆寺 子規

くへば鐘が鳴るなり法隆寺 子規

帰り咲く八重の桜や法隆寺 子規

冬の山低きところや法隆寺 虚子

牧水
雲やゆくわが地やうごく秋真昼鉦も鳴らざる古寺にして

牧水
秋真昼ふるき御寺にわれ一人立ちぬあゆみぬ何のにほひぞ

秋風に又来りけり法隆寺 虚子

八一
おしひらくおもきとびらのあひだよりはやみえたまふみほとけのかほ

八一
たちいでてとどろととざす金堂のとびらのおとにくるるけふかな

八一
ちとせあまりみたび周れるももとせをひとひのごとくたてるこの塔

八一
あめつちにわれひとりゐてたつごときこのさびしさをきみはほほえむ

八一
おほてらのかべのふるゑにうすれたるほとけのまなこわれをみまもる

赤彦
扉ひらけばすなはち光洩るなり眼のまへの御佛の像

赤彦
遠どほに思ひ来りて御佛の長裳のすそに額擦る我は


あまたゝび來むと我はもふ斑鳩の苗なる梨のなりもならずも

八一
ゆめどのはしづかなるかなものもひにこもりていまもましますがごと

八一
義疏のふでたまたまおきてゆふかげにふみならしけむこれのふるには

蜻蛉の群れゐる方に法隆寺 播水

憲吉
われ等来つる靴のおとみの甃石道のくさ霜枯れし夢殿の庭

憲吉
そそぐ陽に甍はしろく火炎はけりいみじき御屋の四方のしづけさ

憲吉
ゆめ殿の暗きに低くきこゆるは秘佛をひらく経の鉦おと

憲吉
いみじくも燈に照りいでし御ほとけの金色の體あたたかく見ゆ

白秋
菫咲く春は夢殿日おもてを石段の目に乾く埴土

白秋
夢殿や美豆良結ふ子も行きめぐりをさなかりけむ春は酣は

白秋
日ざしにも春は闌くるか夢殿の端反いみじき八角円堂

暮れまぎれゆくつばくらと法隆寺 楸邨

円柱より顔現れて食へり楸邨

宝蔵に侍づき咲きて芙蓉の日 友二

夢殿の清閑桜もみづりぬ 亞浪

弱けれど春日ざしなり夢殿に 綾子

寂光といふあらば見せよ曼殊沙華 綾子

綾子
まぶた重き仏を見たり深き春

八一
ひのもとのみてらのかべにゑがかむとしほのやほぢをわたりこしひと

八一
いまさざるみこをしぬびてしづかなるみてらとひこしからのゑだくみ

八一
ゆめのごとありこしてらのかべのゑになほさやかなるふでのあとあはれ

礼すれば釈迦三尊に暮の秋 槐太

澄むと言ひて宝珠露盤を仰ぎけり 槐太

法隆寺出て苜蓿に苦の鼾 三鬼

枯野来て法隆寺みち松に菰 爽雨

練供養春日輪も歩をとどめ 秋櫻子

稚子の列蝶がみちびき蝶が追ふ 秋櫻子

太子像輿もうららに練りたまふ 秋櫻子

花万朶二躯の獅子王も従へり 秋櫻子

花吹雪中宮寺さまを吹きとどめ 秋櫻子

百千鳥舞楽も奏しはじめけり 秋櫻子

塔よりの散華舞ひ落つ舞楽壇 秋櫻子

花吹雪散華を宙にひるがへす 秋櫻子

太子会の夢殿秘佛現じけり 秋櫻子