和歌と俳句

水原秋櫻子

花吹雪散華を宙にひるがへす

太子会の夢殿秘佛現じけり

囀りやくらきに拝む太子像

おぼろ夜を金堂灯る花会式

喚鐘にみだるる燭や花会式

散華舞ふ大光背や春の闇

堂塔の月も久遠や花会式

門跡寺吹貫立てり雛会式

厨子の前金襴敷けり雛会式

一散華一頂礼や雛会式

散華舞ふそのしづけさや雛会式

春暁や壁に笛吹く飛天の図

土筆伸ぶ白毫寺道は遠けれど

惜春や山菜そろふ普茶料理

刈込を見つつたのしむ木の芽味噌

杏咲き雪代さそふ千曲川

雨雲に紅暈置けり花杏

雪解風草津白根は雲もなし

四万川をおほふ藤浪そよぐなり

山椒喰に明けぬとしるす浴泉記

蛍火の渦に乗りつつ又飛べり

南風の波遠し海獣葡萄鏡

征箭見れば玉虫窓をよぎりけり

為朝の弓弦鳴りしか青あらし

月見草うち伏すままに丘の雨