和歌と俳句

水原秋櫻子

天の川堰くとは見えて笠ヶ岳

粧はぬ焼岳蒼し日を負へば

双六岳越え来し小鳥岨に鳴く

生けるもの霜にほろびし岳ならぶ

ものの蔓枯れて近づく槍ヶ岳

紅き実の一葉とどめずななかまど

生きて飛び谿わたるゆく草の絮

熊笹に踏み入り崩す霜柱

錫杖岳かぶさる牧を閉ぢにけり

牧閉ぢて紫こぼす山葡萄

山紅葉離れし宙に奥穂高

秋天に焼岳焦げて五平餅

暮れてまた夕映すなり冬紅葉

夜半照りし月はいづこに冬紅葉

曇れども越の山見ゆ冬紅葉

あつき温泉をいでがたくをり冬紅葉

猿飴の湯島の宮の七五三

その母の裲襠似合ふ菊日和

べつたら漬たのみて飯もよく炊けぬ

野菜畑凍るに黄なる蝶飛べり

沖の一夜に浦をうづめけり

大鯛を得て俄かなる年わすれ

年の瀬や門辺椿のあきのやま

年の瀬や飯に炊き込む貝ばしら