和歌と俳句

水原秋櫻子

流星のきらめき落つる地獄谷

焚火して暮れし紅葉のまた泛ぶ

霧寒し寄せては焚ける散紅葉

黒檜山朝おだやかに木の実降る

ふるき寄席閉づる噂や恵比須講

顔見世や名もあらたまる役者ぶり

顔見世やバスを連ねて成田より

七五三晴ぞと鵯の高鳴ける

業平の旅路霞むや返り花

梵論塚や名も枯れがれの宿河原

鶴とほく翔けて返らず冬椿

元日や鶴の絵のこる一瓶子

宝舟届けくれけり俳諧師

よどみなく童女うたふや手毬唄

手毬唄猿の装束うたひけり

幕あひのさざめきたのし松の内

賀客来て猪の振舞かたりけり

温室咲にゆづりし日向とりもどす

屏風絵の漁翁がさげし鯉ひとつ

巣離れの淀うかがふや鮒釣師

真白米炊きて鮨とす小正月

寒凪に魚貝そろひしちらし鮨

雪降るや一壺一輪白牡丹

白魚の煮ゆるやそそぐ酒すこし

初蝶や池かとまがふ安良里港