和歌と俳句

年の暮

玻璃窓を鳥ゆがみゆく年の暮 三鬼

臥生活の四肢たひらかに年暮るる  草城

年暮るる岬の旅やすぐかへす 波郷

茂吉
のがれ来て 二たびの年 暮れむとす 悲しきことわりと 思ひしかども

年の暮山のかゝりて風のあり 万太郎

さいなんのこれですめばや年の暮 万太郎

炬燵して大安楽や年の暮 草城

年の瀬や寒牡丹いづくにかひらく 草城

嘆かへば熱いづるのみ年の暮 波郷

開運を待つこころにて年の暮 草城

十七夜の月煌々と歳の暮 石鼎

静かにも空晴れ渡り歳の暮 石鼎

佛壇の買へし佛事や年の暮 万太郎

長旅のはてのわが家や年の暮 万太郎

ふところに最中つぶれたれ年の暮 万太郎

耳のはたでつかれたり年の暮 万太郎

歳晩の降りし電車の前を急ぐ 波郷

茂吉
ふとぶとと 老いたる公孫樹の 下かげに われはたたずむ この年のくれ

茂吉
やうやくに 歳くれむとする この園に 泰山木を かへり見ゐたり

坂寄せて来て歳晩の町となり 汀女

波とがり川へのぼれり年の暮 林火

睡りし間に何過ぎたらむ年の暮 波郷

歳晩やトラック滴るまで洗ふ 誓子

年の瀬のネオン山本山高島屋 立子

煤煙のうつろふままの歳暮光 波郷

年暮れぬ吊革隣したる手も 波郷

月明をおどろくねざめ年暮るる 蛇笏

年暮るる野に忘られしもの満てり 蛇笏

年の瀬や軽口たたく療養者 草城

しがらみにかかるもろもろ年暮るる 風生

「胡麻撒り煎餅」落ちて平らに暮の土 草田男

白き靴ベラ旅しばしばの年暮るる 草田男

おだやかに夕づきにけり歳の暮 草城

残骸を横たへとをり歳の暮 草城