和歌と俳句

中村草田男

美田

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冬幹や目なれしものに母の肌

小春の蠅首級くるりと廻し拭く

冬日の鉄壁ただねんごろに鋲多く

ひとを隔ての「見えざる壁」や芙蓉の実

雲見る雀収果の後の林檎の木

木守林檎轆轤は土の玉まはす

母の店へ来る客仰ぎ日向ぼこ

「胡麻撒り煎餅」落ちて平らに暮の土

白き靴ベラ旅しばしばの年暮るる

こぼれガソリン自ら乾き冬日うすし

「縁の下の力持ち」と卜せられたる初笑

羽子板の割れて半ばの何に似たる

年に一度はものに臆すな嫁が君

天へ高き磴又磴へ干布団

急坂半ば手袋拾ひ易かりし

一物無し冬のまぶしさそこ罩めて

枯野測量二人呼応は嬉しげに

年頭とて鵞ペン造りてみし頃よ

光ある中妻子と歩め薄氷期

卵黄を掻き解き掻き解く冬夕焼

赤児の頬ねんねこ黒襟母へつづき

ねんねこから横目つぶらの見晴しや

千手万指のよろこび如何に梅蕾む

咽喉の脹れは甘きに似たり梅の花

道路で唱ふ月島の子や雛の店