和歌と俳句

中村草田男

美田

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鷹を頂側枝幾重の海の松

到るやここを離れぬ鷹か海へ舞ふ

鷹の海銀に小刻み伊勢の方

遠足のなぜとなく待つ紅小旗

百千鳥正面半里をバス来つつ

虹半円人どち盲点重ね合ひ

睡蓮や挿絵も自筆の秘冊あり

汗してマラソン胸もと緊めて銀行員

その音のみ穂麦さやぎに耳順ふ

背の子へ清水の盃を水平に

初蝉ややうやく基地を辿り出し

青蛙土下座ならずと高鳴ける

うたかたが生れた消えたと蚊柱や

七夕流す三年服喪をいはざりしも

むらさきになりゆく墓に詣るのみ

もの食ぶも食ぶるを見るもあはれ

郭公や卓上酒中の詩を信ぜず

雲の峯途上にしてして揉む土不踏

踊意先づ指に走りて雲の峯

中年とは相訪はぬことかきりぎりす

言霊の言をやすめて昼寝妻

かをる白雨聖院乙女に白しぶき

祖国二分の神父と語る白雨の中

他人が放つ飛矢を目送り涼しさよ

夏嵐白羽矢黒羽矢明暗飛ぶ