不幸者は満身追懐の金木犀
かたちなき勝利納るるや冬日揺るる
酒か水か暮の人負ふ甕鳴りつ
気の退潮夜の足冷ゆ鳩のごと
降る雪を鳥凌ぎゆく昇りゆく
水鳥と水の青さの吹かれ寄りぬ
風の水鳥みな尻揚り胸揚り
豊頬に冬日の翳をいなしつつ
虫柱小分けに触れて額さむし
冬杉の焦色おどろき恙なし
頬被り渡舟の席の坐り沢
槇垣の冬芽は黄なり舟乾く
旧正や土竜の土踏み仔犬佇つ
梅開花睫毛の長き涙ぶり
第一波濤冬の砂丘の上に見えぬ
前髪の乱れ髪の間スケート観る
スケートや雲の円蓋忘れ果て
壁をたよりに乙女の入学受験の座
巣ごもりの鶴の江朝寝は受験の果
寺はただ和尚の寝場所か春嵐
老いし友を葬りて早春根岸恋ふ
上根岸低みのままの余寒裡に
でで虫の迹の板塀竜の髯
鴛鴦の深淵に得し妻なるか
鶯や根上り松に声高し