路傍の阜旅人凭らしむ小撫子
円き頭に姉の手置かれ氷水
泉辺へ生きものすべて独り来る
蛍火夜々修道院を乱れ超ゆと
鏡台の柄に日傘吊り独り棲み
打水や意地で恋する前のめり
貧窮問答為ずとも黴の土間過ぐれば
曼珠沙華火宅めがけて消防車
朝顔や漁村の娘の耳ものききたげ
野の軒の風鈴の音や世の広さ
新馬鈴薯と農婦の生身素々と
他者の上にさぐる同罪蟻地獄
白蓮や浄土にものを探す風
颱風眼の匆々の月や末子の上
孤座へ来て漆と膠と胡粉の蝉
田舟もて友を訪ふあり盆供流る
向日葵四五花卓へ投ぐ猟の獲物のごと
早稲の香や見送ればお下髪一筋ぞ
野分晴佐倉の農家いま豊かか
野分晴黒網干して義民の里
心八重に旅空八雲立ち初めぬ
砂をつかめば射す松落葉人親し
手わたす指の長さや夏の桜貝
隙を充たす三角泉幾沙丘
沙丘の泉小鳥の浴み尾もひろげて
女人一途黄沙白泉走せ渡りぬ