和歌と俳句

中村草田男

美田

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路傍の阜旅人凭らしむ小撫子

円き頭に姉の手置かれ氷水

泉辺へ生きものすべて独り来る

蛍火夜々修道院を乱れ超ゆと

鏡台の柄に日傘吊り独り棲み

打水や意地で恋する前のめり

貧窮問答為ずともの土間過ぐれば

曼珠沙華火宅めがけて消防車

朝顔や漁村の娘の耳ものききたげ

野の軒の風鈴の音や世の広さ

新馬鈴薯と農婦の生身素々と

他者の上にさぐる同罪蟻地獄

白蓮や浄土にものを探す風

颱風眼の匆々の月や末子の上

孤座へ来て漆と膠と胡粉の蝉

田舟もて友を訪ふあり盆供流る

向日葵四五花卓へ投ぐ猟の獲物のごと

早稲の香や見送ればお下髪一筋ぞ

野分晴よろこぶ皓歯へ対け

野分晴佐倉の農家いま豊かか

野分晴黒網干して義民の里

心八重に旅空八雲立ち初めぬ

砂をつかめば射す松落葉人親し

手わたす指の長さや夏の桜貝

隙を充たす三角泉幾沙丘

沙丘の泉小鳥の浴み尾もひろげて

女人一途黄沙白泉走せ渡りぬ