和歌と俳句

除夜の鐘

俳諧の帳面閉ぢよ除夜の鐘 鬼城

除夜の鐘撞き出づる東寺西寺かな 鬼城

除夜の鐘この時見たる星の数 石鼎

除夜の鐘襷かけたる背後より しづの女

寺あるや麻布のこゝに除夜のかね 石鼎

松生けて畳に埃や除夜の鐘 石鼎

除夜の鐘うす影は月か門燈か 石鼎

除夜の鐘遠くの雲の月やけに 石鼎

大いなる月よごれ居る除夜の鐘 石鼎

枯れ蔓のかげす櫺子の除夜の鐘 亞浪

門扉ひたと閉ざせる寺や除夜の鐘 淡路女

海老跳ねし厨の音か除夜の鐘 秋櫻子

みづうみや鳴りわたりゆく除夜の鐘 悌二郎

百八の鐘鳴り止みぬそとは雪 鷹女

水甕に水も充てけり除夜の鐘 草田男

除夜の鐘天の磐笛音もぞすれ 石鼎

除夜の鐘京の真中へ鳴りあへり 石鼎

除夜いまや五山の鐘のいりみだれ 石鼎

智恩院の鐘はひよどみ除夜の闇 石鼎

除夜の鐘遠ちかたなるがつきをさめ 石鼎

除夜の鐘金ペンを灯に透かすとき 石鼎

寒くなれば篝にも立ち除夜の鐘 立子

あめりかへいまきこえゐる除夜の鐘 石鼎

苔むしゝ巌の上より除夜の鐘 石鼎

おろかなる犬吠えてをり除夜の鐘 青邨

くれなゐにひびきもつれぬ除夜の鐘 耕衣

除夜の鐘はつたとちぢむ命かな 月二郎

百万の餓鬼うづくまる除夜の鐘 波郷

除夜の鐘幾谷こゆる雪の闇 蛇笏

除夜の鐘わが凶つ歳いま滅ぶ 草城

甘きもの頻りにほしく除夜の鐘 石鼎

われひとりきくやラヂオの除夜の鐘 草城

除夜の鐘吾身の奈落より聞ゆ 誓子

きこえをり北のはたての除夜の鐘 草城

除夜の鐘眼前居る妻もう居ぬ母 草田男

寺寺の百八の鐘みな消え果つ 誓子

妻はまだ何かしてをり除夜の鐘 草城

鐘が鳴る除夜の後悔なにもなし 蛇笏

除夜の鐘もうすぐに鳴るとき寝落つ 草城

除夜の鐘打ちつぎ百を越えんとす 多佳子

除夜の鐘大切なこの歳を病み 多佳子

病室に湯気立てにけり除夜の鐘 波郷

ききわびて終の栖の除夜の鐘 波郷

いと遠き除夜の鐘あり療養所 波郷

岳人の行方の深き除夜の鐘 静塔

星のため月は削られ除夜の鐘 静塔