和歌と俳句

日野草城

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食ふまでのたのしさ尽きず寒の柿

親猫はずつしり重し冬ごもり

小走りに妻の出て行く冬至かな

わがゆまる音のしづかに年暮るる

きこえをり北のはたての除夜の鐘

継いで上げし明眸にて視らる

食べさせてもらふ口あけ日脚伸ぶ

冬ごもり寝間着の柄が気に入りて

季節風いのちを庇ふ家軋む

妻はまだ何かしてをり除夜の鐘

朽ちし胸空寂として冬ごもり

重ね着や栄枯盛衰みな遠く

伝へ聞く友の栄華や日向ぼこ

くれなゐのまつたき花の寒椿

初霜や朝餉のあとの茶のかをり

冬日和誓子が近くなりにけり

女手に注連飾打つ音きこゆ

いつも見る景色がをかうむりて

冬薔薇や強風注意報解除

冬ごもり七曜めぐること早し

冬晴れや鵙がひとこゑだけ鳴いて

耳鳴りにまぎれず啼けり冬ひばり

ことりともいはぬ霜夜のしづけさよ

冬晴れや朝かと思ふ昼寝ざめ

きらきらと暁の明星年詰る