加藤楸邨
跼み読む墓碑の去来の椎しぐれ
円柱より顔現れて柿食へり
会へば誓子秋日にかざす手の白さ
飛鳥村秋風に猫を見たりしのみ
霧を聴く言なきときは別れかな
共に噛む柿の冷たさを訣れとす
本売りて一盞さむし春燈下
微笑みて征けり蝉鳴きしんに鳴く
熱風や征でゆく人に顔笑まれ
梅雨の窓子が覗き去り妻の留守
兜虫障子を鳴らす吾子寝ねて
百日紅片手頬にあて妻睡る
泣きつつぞ鉛筆削る吾子夜寒
春昼の母子爪剪る向きあひて
妻ゐねば蜩ないて腹減りぬ
月あかり書きやめて子の目鼻あり
毛糸巻妻は昔の片ゑくぼ
泣きし子も蟇も真青ぞ青嵐
春愁や何か用ある顔ばかり
新樹雨降る夜間中学生が持つ望