和歌と俳句

皆吉爽雨

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

寒灸の一火一火と燃えしづむ

老の身の坐りかたむく寒にあり

鬼やらふ画室書斎と闇のまま

豆撒きし枕べのまま寝ぬるべし

夜半覚めて毛布に眠りいそがるる

無患子のしぐれし空にみなぎる実

御衣褶拝観さむく流れ出づ

笹子鳴くわが丈笹にしづむとき

奈良にして消ゆる寧楽山しぐれ雲

しかと見る冬至をきのふなる夕日

一塊の霜枯の富士あざみなり

鳴きかはす谷と真空と寒からす

参道の大杉寒をひびきあふ

雪ぬれの足袋ぬぎ訪ふに梅紅し

庭に出て木々は常なる春を待つ

日脚のぶ退勤の顔ことごとく

来ると湖畔のみ堂ほとけ満つ

波明り厨子にぞ浮御堂小春

冬日消ゆ道は築地を左右となる

息づきの仏とわれと堂しぐれ

枯草の歩み礎石の上となる

枯野来て法隆寺みち松に菰

冬日さす柱列賽者ゆかしむる

堂前へすすむ綿虫眉にふれ