和歌と俳句

皆吉爽雨

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一輪といふは寒紅梅のいま

寒梅の一輪なりしあと訪はず

大寒の紙縒一本座右にとる

寒さくら咲いて一輪づつのもの

七湯の果の湯泊り寒がらす

飽食にかむせ飲むなり寒の水

寒がらす山湖わたりに湯げむりへ

籠れよと出よと張りし障子立つ

背にあたる日も養ひよ薬喰

膝の上は病床の机水仙花

みとり女の肌拭きくるる湯に柚子よ

風呂の柚の歓喜の一つ背へまはる

入院に近火のふた夜年暮るる

病む窓を歩みて月とこの年と

着ぶくれしわれに医師の手諸の手あり

大寒の退院大き巷へと

枝々の久しき仔細日あしのぶ

甘熟の八朔を垣避寒宿

障子の日避寒の日々を満つるなり

寒鯉のたむろに倦みてそよぐ尾か

雑炊や病後の奇しき健啖に

山杉の蔵しやまずも冬紅葉

除夜の門に出でて一路の横たはる