和歌と俳句

皆吉爽雨

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

春を待つ身におよばねど机上の日

日脚伸ぶ空それぞれの梢置く

筆硯の吟社と古び年忘れ

幾故人おくりしこれの暦古る

茶の花の屑々の中大一つ

笹子鳴く旅もどりまだ庭を見ず

凍庭に鳥の撒餌もして朝餉

とく参じたれば庭掃き炉開

祖父同士邂逅七五三詣で

冬帽の額あたたかく着そめけり

子とありて燃えつるる耳日向ぼこ

赤富士は逸してめざめ宿凍つる

わさび田のまろ石寒の水ながれ

狐火のそのとき富士も空に顕つ

御陵冬その裔といふ衛士も見ず

芝あるく小春鶺鴒尾をうかべ

書斎時を惜しみ雑炊をはこばしむ

笹原に笹子の声のみちさだか

枝くぐり立ちて寒紅梅ひたと

枯れをはる夜空の銀杏神還る

繕ひの音か塔より枯野ゆく

どの鹿となく屯より声寒き

一燈と熟柿を磨崖仏の裾

もつれ見ゆ三笠山小春空

わが作る霜除の藁ばさばさと

海苔屑の染むる磯ふみ避寒人