和歌と俳句

皆吉爽雨

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人逝きてその湯たんぽの行方なし

埋火を佛間に置いて忌の明けず

初七日の時雨荒れして僧おそし

三七のしぐるる虹も一供養

忌籠りの書屋ごもりに冬日落つ

萩の實のしぐれ気配にうちふるえ

時雨れつつ榠櫨いよいよ實のいびつ

時雨去る島々雲を引きとどめ

時雨傘催合ひて頬のふとちかく

しぐれつつ妙義祭のよるは真闇

着ぶくれて寄れば机の拒みもす

ハンカチを襟にぞ隙間風の艶

思ひふと障子の桟の眼にゆらぐ

埋めつつ玉の如くに思ほゆ火

鷺下りて傾く底ひ池涸るる

見つつ湖にも荒磯ありて行く

一輪にして大寒の椿朽つ

笠雲は紐をもたれぬ冨士小春

わがこぼす黒きを奇しと木の葉髪

綿虫を手にうけ風に手をくぼめ

凾嶺の湯あみを冬の雷のもと

夜のしぐれそれの爪もて蟹食へば

冬帽や奈良は佛の許へもとへ

堂障子破れたまへば佛観む