和歌と俳句

中村草田男

長子

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の航一大紺円盤の中

曼珠沙華落暉も蘂をひろげたり

万巻の書のひそかなり震災忌

秋雨や線路の多き駅につく

露暗しむらがり醒めし藪雀

水の面の秋の灯を雨くだく

朝戸繰るこちらのかはも鰯雲

鰯雲この時空のまろからず

秋晴や橋よりつづく山の道

秋晴や香煙街に出で来る

秋晴やたまさか戻る軒雀

柿の木の無き都辺の秋幾度

深き犬が尾を振りやめぬかな

秋風や脛で薪を折る嫗

雁渡る菓子と煙草を買ひに出て

野明りやあちらこちらへ鴨わたる

杉の森高低もなし鴨渡る

鴨渡る鍵も小さき旅カバン

温泉の宿のうらにの一軒家

なにもかも失せての中の路

打靡くばかりの嶮しさよ

前空となく稲妻のひろかりき

法師蝉の初蝉なれや鳴きをはる