秋の航一大紺円盤の中
曼珠沙華落暉も蘂をひろげたり
万巻の書のひそかなり震災忌
秋雨や線路の多き駅につく
露暗しむらがり醒めし藪雀
水の面の秋の灯を雨くだく
朝戸繰るこちらのかはも鰯雲
鰯雲この時空のまろからず
秋晴や橋よりつづく山の道
秋晴や香煙街に出で来る
秋晴やたまさか戻る軒雀
柿の木の無き都辺の秋幾度
露深き犬が尾を振りやめぬかな
秋風や脛で薪を折る嫗
雁渡る菓子と煙草を買ひに出て
野明りやあちらこちらへ鴨わたる
杉の森高低もなし鴨渡る
鴨渡る鍵も小さき旅カバン
温泉の宿のうらに芒の一軒家
なにもかも失せて薄の中の路
打靡く芒ばかりの嶮しさよ
前空となく稲妻のひろかりき
法師蝉の初蝉なれや鳴きをはる