和歌と俳句

中村草田男

長子

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秋山の上の遠山移るなり

岩うらへ鶺鴒の来て現れず

秋燕に映えつつ朝日まだ見えず

露けさや頭大きな馬柵の杭

遙かにも彼方にありて月の海

庵一つを真浴びて隙もなし

月の座の一人は墨をすりにけり

三日月のそむきて高き夕かな

二樹深く岐るるところ三日月

宵月のやがて大根の葉に照りぬ

月光の壁に汽車来る光かな

雲の端をまぶしや月の出でにけり

冬空は澄みて大地は潤へり

冬の水一枝の影も欺かず

機影去り直視為し得る冬日あり

冬空をいま青く塗る画家羨し

さざら波募れば冬日載りにけり

道の上冬の日向へ出るところ

冬日さす外出用意の二階かな

永く居て薄き冬日にあたたまる

柊の花から白くこぼれ落つ

の花多ければ喜びぬ

屋根の霜樹の葉の霜を仰ぎ見る

踏んで行くや悪夢は昨夜の事