人稀に月光をくる菊供養
蓑を着て売りにきたりし盆のもの
樹の穴へあきかぜの蟻出入りす
月よぎるけむりのごとく雁の列
燈籠を吊ればまひるも宵に似ぬ
満天の星や門火の燃えのこる
戸隠をかくす雲烟蕎麦の花
まんじゆさげ雲の間より日の柱
瓦礫に月虐げられしものばかり
焼跡にかりがねの空懸りけり
焼跡に月の黄つよし彳ちつくす
秋風や谷より立てる橡大樹
天蓋のきらめき虫音四方に満つ
墓地の道鵙に鳴かれて引きかへす
次の間の燈のさしてゐる秋の蚊帳
野分めく午後の授業へ椅子離れ
秋風のひろごる月下あきらかに
金木犀そこここ入日道の果
思はざる夕月一葉地にけぶる
稲架組むや支への棒は刈りし田へ
動かんとする朝露に日は真紅
秋晴の水のたぎちに渦なす藻
洗ひをる障子のしたも藻のなびき
みちのくや漆喰白き月の屋根
夜々つどひくるひとびとに月の道