和歌と俳句

源俊頼

草枕ささがきうすき蘆の屋はところせきまで袖ぞ露けき

ささがきのうすき蘆屋の露けさにしをれにけりと見えもするかな

蘆の屋にしをれもふさず仮にても露にこころを何に置くらむ

いとどしく旅寝のとこの露けさに鴫のはねがき涙そふなり

ほととぎす旅寝のとこにしのぶとも知らでやうはの空になくらむ

おきべなき高瀬の舟をさしすゑて鳥飼ひにても暮しつるかな

うちきるにみのかさかりは見えねどもあめのあしとはおぼえざりけり

三輪の山杉のしをりをしるべにてたづきもしらぬかげぢをぞゆく

あなしふくきよみがせきのかたければ波とともにて立ちかへるかな

ゆふまぐれ鷹とみつれば荒磯の波間をわくる鶚なりける

ながめやる心もともにさみだれて空はれぬまにあやめをぞ刈る

伊勢のあまの苫屋のとこの楫まくら洗ふさなみに目を覚ましつる

箱崎の松はまことの緑にて香椎のかたもつみはきこえず

風をいたみ春もやけさは舟出して思はぬかたに泊まりしつらむ

たづのゐる亀のくひより漕ぎいでて心細くも眺めつるかな

うしまとを叩く水鶏の音すなり波うちあけて誰かとふらむ

たのもしやむさけの瀬戸を入る程は立つ白波も寄らじとぞおもふ

さだめなき空のけしきに追風をまつにふちとをかけて去りぬる

むかし人いかなるかばねさらされてこの島にしも名を残しけむ

うたのしま軒のしたにはおとづれて舟にはのりのこゑぞきこゆる