千載集
いかばかり 秋のなごりを ながめまし 今朝は木の葉に あらし吹かずは
千載集
木の葉のみ 散るかと思ひし しぐれには 涙もやへぬ ものにぞありける
しぐるれば ゆふくれなゐの 花衣 たが染めかけし 遠の高嶺ぞ
とへかしな みやこ恋しき 旅のいほに しぐれもりそふ 草の枕を
いためやま いたしやはしも しぐるれば 木々のまねして 色かはりゆく
しぐれする はれたの山の もみぢ葉の 色づくほどの 名にこそありけれ
降り散らす 時雨にたへて 鏡山 かげ見るばかり 紅葉しにけり
おぼつかな いかにしぐるる 空なれば うらこの山を かたみなせなる
ももつての いそしのささふ しぐれして そつひこまゆみ 紅葉しにけり
いかばかり 涙のしぐれ いろなれば 歎きおほしの 山を染むらむ
詞花集・秋
名残りなく 時雨の空は 晴れぬれど まだ降るものは 木の葉なりけり
紅葉せし をやまの里の 恋しさに しぐれてのみも あけくらすかな
紅葉する こずゑにさへぞ うらみつる 散らで待つべき 心地ならねば
金葉集・冬
竜田川 しがらみかけて かみなびの 三室の山の 紅葉をぞ見る
雲のゐる 富士の鳴澤 風越して 清見が関に 錦おりかく
金葉集・秋
音羽山 もみぢ散るらし 逢坂の 関の小川に 錦をりかく
あれはてて むねまばらなる 山里は 散るもみぢ葉を とこにこそしけ
風ふけば 戸無瀬におとす 筏士の 麻のころもに 錦おりかく
吹きまよふ あらしとともに 旅寝する 涙のとこに 木の葉もるなり