和歌と俳句

阿波野青畝

奈良幽か朝のあしびに鐘わたる

馬酔木野やかしこ法相ここ華厳

林なす花の馬酔木野巫女来ぬる

あしび咲く辺をすぎゆけば金の鴟尾

天に向き地に向き椿皆動く

夕鴉眠らむとす暗ければ

ぼんのくぼ払へばリラの虻の鳴く

天竜は濁り茶山は深緑

蜜柑咲く入江碇泊船燈り

梅雨夕焼電車の席がすいてゐて

嵐山微雨のにごりに張りきつて

白き巳の絵馬を重ねての壁

武蔵野の闇を端居の顔横に

二日避暑お寿司のにほふ刻が午

砂糖水くるくる廻し尼の箸

銀河より聞かむエホバのひとりごと

子午線に流れ星尾を曳きにけり

兵燹の七十二坊天の川

古き世の玉と懸けけり三輪

の山大國主命かな

味酒を月の幸とし仰ぎ酌む

かんばせの端に耳たぶを聞く

吾亦紅折らましものを霧こばむ

陶房の障子洗ひてまだはめず

丸窓を渡る間のありしかな