和歌と俳句

阿波野青畝

紅葉の賀

山の辺のみちの細みち菱紅葉

蜜柑摘む穴師をとめら籠並めて

烏瓜炊ぎげむりのすいと伸び

しぐるるに物干しきりの飯場かな

火の子まひさやぐ壁炉の小天地

大寺や百の火鉢のお粗末に

虎落笛みつまたの花みな動く

虎落笛箕面の早瀬澄みきつて

淀君の秘史以後のこと

クリスマスカードの加奈陀花の國


磐境として突き出たり春の潮

ほんだはら速吸門も渦に浮く

沼の春家鴨は家鴨鴨は鴨

山越しの同じ眺めの畑打

横丁の春泥地獄燈をつらね

滝凍てて制多迦童子ころびをり

鍋島の鴉まじるや春鴉

や大村湾の美しく

聖廃墟はるかなる火の畦焼ける

残壇にちらばる天使春の空

ケロイド無く聖母美し冬薔薇に

磔像の全身春の光あり

萌えはしる蔦御手ひろげたまふ主に

たんぽぽや信者の寝墓ばかりとぞ

名草の芽はグラバーの址に出づ